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ESSAY

ユスラウメと手のひら

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2017.05.30.

ユスラウメ(梅桃、山桜桃梅、学名:Prunus tomentosa)は、
バラ科サクラ属の落葉低木の果樹。
サクランボに似た赤い小さな実をつける。俗名をユスラゴともいう。

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私が生まれたのは 東京都の多摩地区。小平市。
街の中心がスーパーの西友で、コンビニなんてない場所と時代。

住んでいた場所は今ではマンションが立ち並び、跡形も無くなっている。

西武線と深い森に囲まれた一角に、たくさんの長屋式の都営住宅があって、
その中の一つ、
一番奥まった場所で大きな桜の木が庭の入り口に立ち、
玄関の前には ツツジ、左側には大きな沈丁花の木がある、
そんな小さな家に家族4人で住んでいた。 

幼稚園や小学校の低学年の子供頃の思い出しかないので あとはすごく曖昧。
今行くとあまりに小さな集落の痕跡で、その頃は多分1キロメートルなんて大冒険の範囲になるくらい
この小さな都営住宅の集落が自分の世界だった。

隣にある森の木の上に基地を作ったり、オナガや、スズメの雛を拾って育てたり、
とかげの尻尾切って遊んだり、アリの巣に屋根を作ってあげたり。
春になると桜の木の毛虫退治をしたり、カナブンを集めたり、
近所の畑に忍び込んでちょっと野菜を拝借したり、水道道路の脇に生える ノビルや、ヨモギを採ってきたり
秋になると栗畑に栗拾いに行ったり。冬はかまくら作ったり。
そんな遊びができた豊かな場所。

集落の入り口の外の世界は自動車が通る道路でそこから先は大冒険。
駄菓子屋さんや お茶屋さん、お米屋さん、酒屋さんが点在している。
お米やさんにラッシー(当時の人気のみかん味のジュース)を買いに行き、
駄菓子屋さんで きな粉飴とあんず飴、クジ引いたり。
そんな場所は冒険といえど1人や友達と遊びに行けたけど、お茶屋さんは母と行く場所だった。

こぢんまりしてるけど、きちんとした佇まいのお茶屋さん。
引き戸をガラッと開けると緑茶と畳の香りがフワ〜っとだだよって
いつ行っても静かで掃除が行き届いていて 
おばあちゃんと、お母さんより年上の女性がお店をやっていたように記憶している。
子供の気配のしないとても大人な場所だった。

空気が少しひんやりしていたのと
今でもそこに差し込む光の粒子の感じと 影の感じを覚えている。

ついていくと お茶飴をもらったり(ちょっと苦手だった)
母が色々世間話をしている横でお菓子を食べたり。

そして、そのお茶屋さんのお店の前に大きなユスラウメの木があった。

春になると綺麗な花を咲かせて ぷくぷくした真っ赤な実をたわわにつける。
私はその実が大好きで 青いザルいっぱいにその実を採らせてもらって
口いっぱいに頬張るのが幸せで春が待ちどうしくて仕方なかった。

去年苗を買い、自分のベランダでユスラウメを育ててみた。
多分あの場所から引っ越してから食べてなかったユスラウメをすごく食べてみたくなり
そして花が咲く春を心待ちにしていた。

ユスラウメの木肌は本当に桜と同じで、密集した葉の間にピンク色のたくさんの可愛い花をつける。
今年は残念ながら世話が行き届かず、実はわずか10個くらいだけ。

今日その実を収穫して自分の手のひらに乗せて撮影してみた。
数十年ぶりに 子供の頃手のひらに乗せたその感触を思い出して本当に色々な情景を
頭の引き出しから取り出して投影できた気がする。

だいぶ大人になった私の手のひらに乗っているユスラウメ。

赤いユスラウメを乗せた手のひらは 
あの時の自分のぷくぷくした手のひらのとは全然違っているけど
ユスラウメを手にした喜びと、食べた時の美味しさは
全く変わってない。

多分この文章の中も親から見れば思い違いや記憶違いがあるかもしれないけど
思い出は誰かに迷惑をかけない限り、正確に思い出さなくてもいいかなと思う。
鮮烈な印象が強く残ってることがすごく大切なんだと。

来年はもっとたくさん美味しい実をつけるはず。

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ユスラウメ(梅桃)の花言葉
『郷愁』『ノスタルジー』『輝き』『貴び』