SAI PHOTOGRAPH

WORKS

「夢に見る空家の庭の秘密」展 /恵比寿 ALギャラリー

Category :
EXIBITION
Launch :
2017.02.11.

恵比寿映像祭2016
地域連携プログラム
写真、映像作品で参加

夢にみる空家の庭の秘密
The Secret of the Vacant House Garden Seen in a Dream

展示会期:
2016年2月12日(金)〜2月14日(日)

企画・共催:
住吉智恵(TRAUMARIS アートプロデューサー)
http://traumaris.jp/space/2015/12/post-22.html

共催・会場:
AL
〒1500022 東京都渋谷区恵比寿南3-7-17 1F
TEL:03-5722-9799
http://www.al-tokyo.jp/

構成:
パフォーマンス
川口隆夫「Slow Body」
2月12日(金)20:30開演
入場料 2500円(1ドリンク付き)
予約:info@traumaris.jp

展示:
青木美歌(アーティスト)
sai(フォトグラファー)
山本修路(アーティスト・造園家)

企画主旨:

庭は動いている宇宙だ。 

高校・大学時代に庭園史に興味をもったきっかけは「去年マリエンバードで」「美女と野獣」「英国式庭園殺人事件」など、その頃かぶれていたヨーロッパの前衛的な映画だった。
ヨーロッパの庭園建築は、イタリア・ルネサンスのテラス式庭園、絶対王政時代のフランス式整型庭園、18世紀の英国式回遊庭園、といった様式の変遷のなかで、常に人々にキリスト教的宇宙観を啓蒙するメディアであり、楽園の象徴だった。
カトリックの学校で荘厳な教会建築に親しんでいた自分にとって、半ば外界に開かれ、創造主の造った完全無欠の自然に対峙し、人智を尽くしてユートピアを再現しようとした造園家たちのそのチャレンジ精神に強く惹きつけられたのかもしれない。
庭に惹かれた記憶はさらに幼少期に遡る。
猫の額ほどの世田谷の実家の庭は、鹿威しや蹲い、灯籠が設えられ、松や紅梅、寒椿、沈丁花、ヤツデ、アオキなどが鬱蒼と茂り、陽のあまり入らない暗くじめじめした和風の坪庭であった。
緑苔に覆われた固い地面の下で這いまわるミミズやナメクジ、ダンゴムシ。生き物のような繊毛の生えた渦巻きの新芽を出す羊歯。ボウフラがわきアメンボがとまる小さな添水。かちかちの地表を突き破ってほっそりとした茎をのばすヒメシャガや鈴蘭などの可憐な草花。
そこかしこに生命がひそみ、蠢いているさま。植物や小動物、昆虫、微生物たちの織り成す、目に見えない矮小な生態系が、限られた環境のなかで息づいているさま。それが原風景としての「庭」のイメージだ。
やがて高校時代、手にとった萩原朔太郎の詩集「青猫」のなかで、一編の詩「夢にみる空家の庭の秘密」に出合う。そこには、子どもの時分から一人遊びのきわめて個人的な小宇宙であり、繰り返し夢にまで現れた庭の情景がそっくりに描写されていた。
次に心惹かれた庭は英国にあり、辿り着けていない。
映画監督デレク・ジャーマンは、英国の海岸地帯ダンジェネスで、原子力発電所周辺の貧しい土壌の地にぽつねんと建つ漁師小屋に引きつけられ、それを買い取る。少年時代から庭仕事に精通していた彼は、HIV/AIDSで日ごとに衰弱する肉体から微かに残る胆力を絞り出すように、その庭に荒れ地でも育つ生命力の強い植物を植え、海岸で拾った鉱物やガラクタでストーンサークルを組みあげていく。
写真集「デレク・ジャーマンズ ガーデン」は特別な本だ。
すかすかに乾いた険しい大地に宿る命を精いっぱい吸いあげようとする営みと、茫洋とした風景に息づく無骨に捩じれた灌木やたくましい草花に、今でも頁を繰るごとに強く心を動かされる。
ベランダガーデニングにも手を染めたが、腐葉土を注入されてふかふかに心地よく設えられた花壇やプランターにはないものを求めていた。近年流行も粋を極めたのか、低温低湿に強い多肉植物や地味な高山植物を育てる歓びを知った人が多いと聞く。それならば、かねてより夢に現れ、遠く英国に思いをはせたあの庭を再現できるかもしれない。
本展では、生き物にとって厳しい自然環境、限定された空間と条件のなかで生命力を凝縮し、培養することの可能な庭のイメージを、多様なアーティストの表現と共に掬いあげる。
造園家でもあり、青森県の奥入瀬渓流や津軽などの生態系からさまざまな自然現象を抽出し、作品化する活動を続けるアーティスト、山本修路。
「地球の外庭」ともいえるアイスランドの荒涼とした自然に、自身の立ち位置とサウダージの拠りどころを見出したフォトグラファー、sai。
並行世界から現れた有機体のような、冬の最初の霜柱の精を思わせる、頑なで凛と澄んだ佇まいのガラス彫刻をつくりつづけるアーティスト、青木美歌。
そして、ダンスとも演劇とも割り切れない、モノローグ的な独特のパフォーマンスにより自身の生き様を表現してきた川口隆夫が、2013年に続いて恵比寿映像祭に登場する。彼はかつてデレク・ジャーマン監督『クロマ』の共訳のため、ダンジェネスのデレク・ジャーマンの庭を訪れている。
本企画では、作家たちの表現を借りて、さまざまな自然の様相と、植物・鉱物・動物の関係性に注目する。人智を尽くしてユートピア像を具現化しようとした庭園史を紐解きながら「新しい庭」の姿をおぼろげにでも想像することができればと考えている。

住吉智恵
TRAUMARIS主宰。アートプロデューサー、ライター